カウンセリングに役立つ映画・ドラマ解説 ~映画『水曜日が消えた』~

心理学教育において映像教材(映画やドラマなど)を活用し、心理学の視点から様々なことを読み解いていく作業は、大学の授業で実際に行われていたり、書籍がいくつか存在したりします。
コロナ禍により、在宅での時間が増えた今、積極的に映画やドラマを観て臨床力を高めていきましょう!

さて、今回紹介する映画は、2020年6月19日より全国上映が開始された『水曜日が消えた』です。
ネタバレが含まれますので、コラムを読まれる際は十分にご注意ください。
解説をするにあたり映画のあらすじを「映画.com」より転記しておきます。

“幼い頃の交通事故により、曜日ごとに性格も個性も異なる7人が入れ替わる「僕」。
彼らは各曜日の名前で呼び合っているが、中でも「火曜日」は一番地味で退屈な存在で、他の曜日から家の掃除など面倒なことを押し付けられる損な役回りだった。
しかし、ある時、1日を終えてベッドに入った「火曜日」が、水曜日に目を覚ます。
僕の中の「水曜日」が消え、「火曜日」は水曜日を謳歌するが、その日常は徐々に恐怖へと変わっていく。”
(下線は筆者が追記、”映画.com:水曜日が消えた” )

映画を鑑賞されると、心理学や精神医学に精通されている方は、ある作品を思い浮かべるかもしれません。
そう、あれです、「ビリー・ミリガン」です。参考までにWikipediaの情報を載せておきます。

“ビリー・ミリガン は、アメリカ合衆国生まれの男性。
オハイオ州の強盗強姦事件で逮捕・起訴されたが、彼は解離性同一性障害を患っていると主張、裁判で解離性同一症と事件の関わりにおいて注目され、有名になった。
日本でもダニエル・キイスの著作によりその名を広く知られた”
(下線は筆者が追記、”Wikipedia:ビリー・ミリガン”
※解離性同一性障害;自分の中にいくつも人格が存在する疾患、詳細は下記参照。

両者に共通する部分は、下線部分(「曜日ごとに性格も個性も異なる7人が入れ替わる「僕」」と「解離性同一性障害」)になるわけですが、今回は「水曜日が消えた」の内容に絞ってみていくことにしましょう。
まず、「幼い頃の交通事故により、曜日ごとに性格も個性も異なる7人が入れ替わる「僕」」との内容から、とある疾患名が思い浮かぶかもしれません。
定義の確認も含めて、診断基準を確認してみることにしましょう。
DSM-IV-TR(古い版ですが…)によると、

【解離性同一性障害】
A. 2つまたはそれ以上の、はっきりと他と区別される同一性 (identity) または人格状態 (personality states) の存在 (その各々はそれぞれ固有の比較的持続する様式をもち、環境および自我を知覚し、かかわり、思考する)。
B. これらの同一性 (identity) または人格状態 (personality states) の少なくとも2つが反復的に患者の行動を統制する。
C. 重要な個人的情報の想起が不能であり、普通の物忘れで説明できないほど強い。
D. この障害は物質(例:アルコール中毒時のブラックアウトまたは混乱した行動)または他の一般的疾患(例:複雑部分発作)の直接的な生理的作用によるものではない。
注:子供の場合、その症状が想像上の遊び仲間(イマジナリーフレンド imaginary friend)、または他の空想的遊びに由来するものではない。

と定義されています。
ざっくり言うならば、「自分の中にいくつもの人格が存在している状態」と言えるでしょう。
まさに今回の「僕」の状況です。
では、このような方が実際に相談がいらした場合、私たちはどのようにカウンセリングを行うのが望ましいでしょうか。

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